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コンテンツの力で雑誌の部数はまだのばせる。
「コンテンツファースト」という考え方

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  • 2017年4月 5日

ネットの台頭により雑誌媒体の苦境が伝えられて久しい。雑誌業界全体の部数の潮流は、1990年代半ばのピーク時から毎年マイナス9%と右肩下がりのダウントレンド。現在は、最盛期の約半分まで落ち込んだといった試算もある。リクルート住まいカンパニーも家探しやリフォームに関する複数の情報誌を出版しているが、世の中の潮流には逆らえず、厳しい局面に陥ることもあった。そんななか、現在では新しい取り組みで部数を伸ばしつつある。復活の要因が、編集記事が持つ本来の強さを見直し、質の良いコンテンツでカスタマーにリーチする「コンテンツファースト」の考え方だ。その考えを具現化した一人が福澤佳恵。『SUUMOリフォーム』の編集長である。福澤は、いかにして、これらの媒体を再生したのか。その答えは、カスタマーが持っていた

福澤佳恵(ふくざわ・よしえ)

ネットビジネス統括本部 編集部 リフォーム情報誌グループ 『SUUMOリフォーム』、『HOUSING』、『注文住宅』 編集長

2003年リクルート入社。ハウジングディビジョン(現・リクルート住まいカンパニー)へと配属される。注文住宅領域の営業を3年半経験したあと、2006年に月刊ハウジング(現HOUSING by SUUMO)編集部に異動。2012年に『SUUMOリフォーム』などリフォーム領域4誌の編集長。2016年8月から現職

カスタマーの声を聞き潜在的なニーズに応える“記事”を研ぎ澄ます

福澤が『SUUMOリフォーム』の編集長に就任したのは、2012年のこと。リフォーム領域だけで4誌が存在しており、「カスタマーの立場からすると、4冊の本が同時に並んでいたときに、どれが自分向けの本かが分からない状態でした。クライアント様の特性やエリアで本を分けており、カスタマー視点での位置づけができていなかった」と当時を振り返る。雑誌自体のダウントレンドに加え、雑誌同士がバッティングして、それぞれの部数が低迷してしまうといった悪循環に陥っていた。
2013年、部数を伸ばすために最初の施策が講じられる。そのひとつが、流通販促の強化だ。福澤は、「とにかく付録に力を入れていました」と語る。雑誌に付録をつける。これは当時、業界のトレンドでもあった。現に、一時的な部数回復には効果があったという。
しかし、付録にコストをかけて部数を増やすことは、情報誌としての本質から外れます。そもそも、付録が欲しくて購入してくれるカスタマーは、リフォームを目的にしていない可能性も高い。リクルートの強みは、良質な編集記事や情報によるクライアントとカスタマーのマッチング。その部分を強化する必要性を感じていました。
転機となったのは、上司がコンパクトデジカメを購入したときのエピソードだ。そのエピソードとは、「デジカメはスマホの普及で苦境に立たされている状態。しかし、おまけをつけて売っているデジカメなんてひとつない。多くのデジカメは、カメラ本来の“撮影力”を強化することで、カスタマーが必要とするニーズに応えようとしていた。情報誌も同じで、カスタマーのニーズに応える“記事”を研ぎ澄ます以外、活路はないと気づいた」という内容だったという。
もちろん、編集記事の質が低かったわけではない。「カスタマーからの評価が高かった記事を分析して、良かった部分を強化。そこに、オリジナリティを加えながら、さらにいい記事を制作する」という手法で、カスタマーの知りたい情報に応えようとしていた。しかし、カスタマー全員が興味があることはある程度決まってくる。一般情報誌なら、春は桜、夏は海に花火、秋はグルメで冬は温泉の記事が目に付くのと同じ事。リフォームでいえば、どうしてもお金や間取りの記事が多くなった。



潜在的なニーズを掘り起こし、半歩先の情報を提供する

その当時をふり返り、福澤は「顕在化したニーズではなく、潜在的なニーズを汲み取ることが出来ていなかった」と語る。「ニーズが顕在化していれば、知りたい情報はネットで簡単に検索できます。では、有料の情報誌の使命はなにか。それは、潜在的なニーズを満たす、半歩先の情報を届けることです」と語り、一例を挙げた。
「例えば、キッチンを変えたいと考えている人に最新キッチンを紹介するだけなら、ネット検索で事足ります。私たちが載せるべき情報は、日常生活で家事の不便に気がついていない人に、キッチンを変えることで不便が解消され、家事に革命が起こることを気づかせること。この気づきこそ、潜在的なニーズを掘り起こす半歩先の情報です」
実は、リフォーム情報誌では、潜在的なニーズを掘り起こすのは難しい。住宅購入であれば、カスタマーの年代や年収、目的をある程度絞り込めるが、リフォームは経年劣化の修繕もあれば中古住宅購入後のリノベーションもある。カスタマーの年代も年収も、そして目的もバラバラなのだ。福澤は「リフォームの要望はカスタマーひとりひとりによって異なる。そんな状況で全カスタマーを対象にした記事を提供しても、結局、誰にも刺さらないんです」と語る。
「半歩先の情報で気づきを与える記事を制作する」。それは、言い換えると、カスタマーを定量で見るのではなく、ひとりひとりに寄り添うこと。新しい『SUUMOリフォーム』の方向性は決まった。しかし、そのためには、これまでのように、定量データに基づいた記事制作はできない。福澤の取った行動は、とにかくカスタマーに直接会って、生の声を聞くことだった。
「さまざまな声を聞くなかで、カスタマーによってリフォームの起点が異なることがわかりました。古いお宅に住むカスタマーなら、寒い、暗いなど、目の前の不満を解消したいリフォームが多い。これはわかりやすい。一方、若いカスタマーには、“おばあちゃんのミシン台が似合う家にリノベーションしたい”など、理想の家に近づけるリフォームが多い。入口が異なるリフォームがあることに気づけたのが、大きな収穫でした」
そこで、福澤は、『SUUMOリフォーム』『SUUMOリフォーム 実例&会社が見つかる本 エリア版』の位置づけを見直すことにする。
「『SUUMOリフォーム』は、不の解消、『SUUMOリフォーム 実例&会社が見つかる本 エリア版』は、理想の空間実現、と位置づけました。そして、カスタマーの生の声を参考にして、詳細なペルソナを作成。それぞれの読者が、何を期待して各誌を手に取るかを細かく想定しました」



変わらないことは、「相対的に劣化している」ということ

「不の解消」と「空間実現」の二本柱。思い切った方向転換に、上層部の感触は悪くなかった。一方で、「劇的に変えて大丈夫かな、という空気」も感じていたという。「情報誌のリニューアルは責任重大。本を変えることで、営業やクライアントにも影響を与えます。この方向で行くんだ、と自信を持って言い切るのは勇気のいることでしたが、決断できたのは、カスタマーの声をしっかりと聞けたからですね」
答えはカスタマーが持っていた。福澤は、実際に記事を制作する編集部のメンバーも、直接カスタマーに会って生の声を聞くことを勧めた。
「記事の基本は、誰に何をどうやって伝えるか。カスタマーの生の声を聞くことで、“誰に”が明確になりました。その結果が、先ほども話に出た、詳細なペルソナの設定です。これにより共通言語が生まれ、編集部のメンバーだけでなく、営業や制作担当者も方向性がブレずに共有できるようになりました。“何を”の部分は、「不の解消」と「空間実現」という大方針に沿って毎号、半歩先のテーマを考えます」
残っている“どのように”は、まさに編集記事を魅力的にするテクニック。これまでは、1号の中でお金・デザイン・ペットなど様々なテーマの特集記事を作っていたが、「不の解消」をという大方針をもつ『SUUMOリフォーム』では、号ごとにメインテーマを設定。そのメインテーマに沿った3本の特集で深さを追求する形へと変えた。
「最初の特集は、リフォームをして快適に暮らしている方の家と暮らしを写真で見せて共感接点を得ます。次の特集で、そのテーマでリフォームを行う重要性を認識してもらう。最後の特集で、自分の住宅ならば、どこをどうリフォームすればいいのかが明確になるところを目指しています。「リフォームするとこう変わるのね」止まりではなく、「お父さん、うちもリビングに床暖房入れよっか」と夫婦の会話に出るような。私たちはこれを“ワガゴト化”と呼んでいます」
リニューアル一発目のメインテーマは、「解決!寒い家」。最初は、暖かく温度変化が少ない家へのリフォームをふんだんな写真とストーリーで見せる。次に、医師や専門家の取材記事で、寒い家に潜む危険を認識してもらい、最後に風呂・廊下・寝室など部位別に暖かく暮らせるリフォームを行う具体的な方法を記した。
「断熱性を上げて家が暖かくなるリフォームを行ったカスタマーに、リフォームして良かったことを聞いたんです。すると、カビが発生しなくなって、夫が夜中に咳をしなくなったと妻がいう。その一言に、寒い家をテーマにするときには、健康への影響を記事にしなくてはいけない、と教えられました。ネットで“寒さ、解消”と検索しても、咳が止まるというメリットには簡単に辿り着かない。まさに、半歩先の情報だと思いませんか」
結果、部数が1.4倍になる号も現れ、リニューアルは大成功。コンテンツにこだわれば、部数はついてくることが証明され、とことんカスタマーサイドに立った「コンテンツファースト」の方針は、リフォーム以外の領域の情報誌にも続々と取り入れられることとなる。
「おかげさまで部数は伸びました。しかし、私たちは満足せず、次の新たなチャレンジをし続けなくてはなりません。雑誌業界全体がマイナストレンドの中、そういう宿命にあると思っています。変わらないということは、相対的に劣化していることだから」と福澤は気を引き締める。そして、「半歩先の情報を提供し続けるには、“カスタマーの声×時代の気分”から導き出される企画力が重要」と続けた。
時代の気分は移ろいやすく、変化のスピードは一昔前とは比較にならないほど速い。だからこそ、常にカスタマーの声を聞き続けて時代の風を捉え変化していかなければならないのだろう。福澤は、「今はネットで様々な情報が無料で手に入る時代です。だからこそ、私たちはお金をかけた価値があった、とカスタマーが思って下さるような半歩先の気づきや、ネットにはない情報の深さにこだわっていきたい。それに、なにより私、紙媒体が好きなんです」と笑った。