2019.01.10

業界活性化のハブとなりうる、不動産テック協会設立記念イベントレポート

日本における不動産テックを通じた生活向上を目指す、一般社団法人不動産テック協会(以下、不動産テック協会)の設立記念イベントが去る2018年11月28日(水)に開催された。

リーマン・ショックから考える不動産テックの役割

当日は理事、顧問の挨拶に続き、顧問らによる講演、そして不動産テックカオスマップの発表、分科会の活動紹介が行われた。顧問の1人である・尹煕元(ユン ヒウォン)氏は「不動産テックは何をもたらすか?」というテーマで講演を行なった。

その中で尹氏は、インターネット産業が勃興したこの30年間を振り返り、2008年に起きたリーマン・ショックがその後の「不動産とテクノロジーの関係」に大きな影響を及ぼしていると指摘した。リーマン・ショックの発端となったのは、2003年に成立した「アメリカン・ドリーム・ダウンペイメント法*」だった。アメリカ一国における不動産バブルの崩壊が世界的な信用不安につながったこの危機だが、元をたどればその発端は「すべてのアメリカ人が住宅を所有できる」という「人々の夢(アメリカン・ドリーム)」だったという。

*住宅ローンの借り手に完璧な書類の作成を求めないというもの。この法律を根拠に低所得者に対する貸付(サブプライムローン)が急増した。しかしそれは現実的に返済が困難な金利で貸し付けられていたため、やがては焦げ付き、住宅バブルの崩壊、リーマン・ブラザースの破綻、世界的な信用不安へと連鎖的に危機が拡大した。

また、現実的にあり得ない金利であるにも関わらず盲目的に貸し出しが進んだサブプライムローンの問題。これは人間の倫理観と判断力の欠如が要因とも言えるが、尹氏曰く、テクノロジーの世界でも同様のことが言えるという。AIをはじめとした先進のテクノロジーは万能ではなく、その役割は限定的だからこそ、それをコントロールする人間の感覚や、それを具体的にどのように活かすかという「デザイン思考」の重要性が増している。

リーマン・ショックを見れば分かるように、人々の生活に密接に関与し、社会の在り方すら左右するのが不動産である。不動産テックに携わる人間は「人の夢の実現に関わる」覚悟を持ち、不動産領域におけるさまざまな課題の解決(例えば、不動産の評価の可視化、遊休不動産に対する付加価値の提供、時代に振り回されないための正確な情報サービスの提供など)に取り組むことがますます求められると締めくくった。

同じく顧問である長嶋修氏や本間英明氏の講演も、不動産市場の活性化に向けて日本の不動産テック産業の白地は大いにあると期待させる内容であったが、尹氏の指摘はそれに対してどのような態度で向き合うべきなのか、指針になるものだった。

左:尹煕元氏、右:赤木正幸氏

不動産テック活性化の鍵は「データのオープンソース化」

セミナーの後半では、不動産テック協会の共同代表を務めるリマールエステート株式会社代表取締役の赤木正幸氏より、不動産テック協会の概要について説明がなされた。同協会の目指すものは、「不動産とテクノロジーの融合を促進することで不動産に関わるビジネスの健全な発展を図る」と共に、尹氏も指摘したように「テクノロジーに翻弄されない仕組み、環境をつくる」というものだ。その目標を共有する約40社が既に入会しており、今後は100社の加盟を目指すとしている。また、不動産業界団体への加盟や連携も調整しているとのことだ。具体的な活動は、「情報化・IoT部会」「流通部会」「業界マップ部会」「海外連携部会」という分科会で行われている。

「流通部会」で発表された不動産テック協会に求められるニーズ調査の結果によると、不動産テック事業を行う上で障壁があると感じている回答者は全体の7割近くにのぼる。さらにそのなかで多く(34.6%)が指摘したのが「データ」に関する障壁だ。具体的には、不動産関連のデータが点在しておりインフラが整備されていないこと、業務がアナログなため正確な取引データが蓄積されていないことなどが挙げられていた。

各所に点在している物件に紐づくマスターデータの標準化・一元化に関しては取り組みが進んでいるものの、REINS、国土交通省による不動産統合バンクなど、複数のプロジェクトが立ち上がっているほか、すべての物件情報をカバーするには膨大な時間がかかる見込みである。それに対して同協会の「情報化・IoT部会」では、一元化以外のアプローチとして、ビジネスに活用できるデータ(マスターデータに加え、マーケットデータ、トランザクションデータなど)の標準化と連携の仕組みづくりを進めようとしている。

今回のセミナーでもいくどとなく触れられていたが、不動産業界は「情報産業」である。情報産業においては各事業者の情報の囲い込みが起きやすいという環境下で、アメリカでは既に当たり前となっている不動産情報のオープンソース化に向けて同協会がどのような役割を果たすのか、今後も注目したい。

業界を俯瞰し、産業創出をリードするカオスマップ

また、今回のセミナーでは、第4版となる最新版のカオスマップが公開された。前回の掲載社数は約170社だったが、今回は約260社と1.5倍以上に増えたということだ。前回のカオスマップと比較してみると、特に「IoT」「AR/VR」などのよりテクノロジーが重要なカテゴリは倍近く増えている。この現状について、赤木氏は「日本の不動産テックが遅れているというわけではなく、まだまだ埋もれている状況」と解説した。さらに、近年は不動産会社とテック企業の境目が曖昧になってきているという。実際に「マッチング」や「物件情報・メディア」カテゴリにはシードベンチャーももちろん見つかっているものの、以前からサービスをやっていた事業者も複数追加されている様子が見られる。このように、不動産テック業界において産業創出を促進するためにも、カオスマップのような業界を俯瞰した情報が求められているのだろう。

掲載に関する要件や各カテゴリーの定義については、不動産テック協会のWebサイトにも掲載されているため、参照して見てほしい。

参考:https://retechjapan.org/retech-map

ステークホルダーが協働することで、不動産テック業界の発展を目指す

業界×テックの分野は、基本的にはキーになるテクノロジーをカギにして、少ないリソースで新しい市場を開いていく動きが多いため、市場が小さい段階で各テックベンチャー同士が初期クライアントへの囲い込みや覇権争いがおこりやすい構造である。しかし、このセミナーでは、ステークホルダーが一丸となって市場全体を作っていく姿勢が垣間見えた点が非常に特徴的であった。