2018.08.23

日本と海外の不動産テックを比較してみての今後の展望

不動産テック(不動産×テクノロジーの造語)は、例えばアドテク(広告×テクノロジー)やフィンテック(金融×テクノロジー)など、他の「業界×テクノロジー」の造語に比べて比較的新しい単語である。不動産業界は歴史が長く、業界独自のルールも多く、更に基本的に不動産自体がアナログな資産であるため、デジタルの普及そのものが遅れているからである。

しかし、この業界がテクノロジー普及によって急速に発展・変化していく今、市場構造はどうなっていてどこにビジネス機会があるのかを見極めていく価値が出てきている。

今回は今年おおよそ同時期に発表された日本のカオスマップと海外のカオスマップを比較して、デジタル化が進む海外トレンドとの差異から今後の展望を考察していきたい。

●カオスマップの紹介

まずは今回比較を行うカオスマップを紹介する。

国内の不動産テックカオスマップ図

この国内版のカオスマップは、不動産テック協会(仮称)準備委員会が発表したもので、不動産テック分野に精通する、または専門とするベンチャーキャピタリストや有識者がディスカッションを重ねて、国内不動産テックの市場構造や独自性を分析して作成したものである。12分野で計173社が掲載されている。

海外の不動産テックカオスマップ図

海外版はVenture Scanner(https://www.venturescanner.com/)が同社のブログ上で公表をしたものである。

Venture Scannerは米国を拠点とするアナリストとテクノロジーを駆使したスタートアップ専門のリサーチファームである。今回は不動産テックに関してであるが、他にも計15分野で各スタートアップ企業とその業界動向を継続的にリサーチしており、FacebookやJP モルガンなど名だたるグローバル企業が彼らのレポートを使用している。

こちらも日本とは切り分けが異なるが計12分野で切り分けている。また、掲載社数は世界全体をカバーし、計1613社となっている。

尚、今回取り上げた日本国内のものは2018年3月7日版でリサーチ時期未掲載、海外のカオスマップは2017年12月リサーチ、2018年2月12日掲載のため、両者に若干のタイムラグがある点はご容赦いただきたい。

●両者の比較

各分野や会社個社の1つ1つの解説は割愛するが、全体で比較すると、大きく3つの特徴があることがわかった。

まずは、建築でのプロジェクト管理やインドアマッピング(*)など、物やタスクを構造化するSaaSの領域に日本企業が極端に少ないことである。海外では建設業独自のプロジェクト管理ツールが売られており、海外大手のファイル管理ツールやSIer、人事ASPなどとも連携しているものが見られた。3D位置情報や微細誤差のビーコン、位置情報に標高情報を足して表示する仕組み等は国内にも会社や技術は存在しているが、市場としてまだ際立ったサービスが出てきていない現状がある。世界的にもインドアマッピングは36社なので少なく、今後の伸びしろとともに、海外のスタートアップが市場を取りに来る可能性がある。
*インドアマッピング=屋内環境をデジタルで可視化する技術。屋外用地図などと異なり、例えばビルの~階にいるなど3D情報や、建物の構内図などを克明に示すことができる。

次に、海外での最大領域はIoTホームであることである。カオスマップ全体の掲載社数は国内と海外で約10倍の開きがあるが、この分野に関してのみ、海外では日本国内の約22倍の会社がある。また、日本国内ではスマートキーやクラウドカメラなど、セキュリティ製品を代替するスタートアップが多いが、海外では室内でのIoTデバイスを統合的につなぐ技術を売りにしたり、AIでビル全体を最適化するものなど、カバー範囲や使用技術に幅がある。日本は財閥系不動産会社や特定の住宅メーカーのプレイヤーが強い特殊な環境なので参入障壁や市場醸成に時間がかかる可能性があるが、日本国内でも伸びしろはある領域だろう。

最後に、情報・紹介サービスは日本国内でも海外と同じようにサービスが多岐にわたっているとみられる。もちろん社数は海外に比べて少ないが、日本にも物件情報提供メディアやダイレクトマッチング、仲介支援ツール、民泊、リフォーム、シェアリング、BtoBデータベースなど様々な情報非対称性を埋めるサービスが生まれていて国内のカオスマップの約半分ほどはこれにあたるだろう。国内展開されているAirBnbやWeWorkなど海外のビックプレイヤーもカオスマップに入っており、ブランドやUX的な差異、各社の営業能力などソフト面の設計部分で差がつくとみられるし、今後も競争しながらマーケット全体が発展をする可能性があるだろう。国内カオスマップの大部分を情報/紹介サービスが占めており、販売事業者やオーナーが使用する管理ツールも海外も日本も共に出てきている。

●今後の日本の不動産テック

以上から、不動産テックの業界を国内外のカオスマップ比較から見てきて以下の3点を発見した。

1.プロジェクト管理ツールやインドアマッピングの領域に日本は企業が極端に少ないこと。
2.日本の市場環境は特殊だが、海外ではIoTホーム領域の数が多く、カバー技術も幅広いこと。
3.情報非対称性の解決に関してのサービスは日本も比較的に盛んであること。

もちろんカオスマップに載っていない会社もあれば、2018年初頭前後のデータのため会社数も変化(おそらく増加)し続けているだろうが、領域の捉え方や会社の割合にも海外とは特異的な差がみられ、日本に独自の生態系ができ始めていると考えることもできるだろう。

例えばIoTホーム分野など海外勢が多く日本勢が少ない領域での国内サービス開始やリーダーの誕生は今後の市場環境を分けると考えられるし、情報非対称性を利用するマッチングやポータルサービスの領域では、国内市場全体の発展や日本初で海外で戦えるユーザー体験価値を持つものも出てくるかもしれない。