2018.10.16

大企業×スタートアップの可能性 〜31VENTURESと考える不動産業界〜|インタビュー

三井不動産のスタートアップとの協業・共創のための事業基盤であるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)ファンド「31VENTURES」。今回、CVCファンドでご活動されている三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ 統括 小玉丈さん、主事 能登谷寛さんへインタビューを行った。

31VENTURESは、2015年4月からスタートアップ向けのコワーキングスペースや小規模のオフィス提供を主たる業務として開始。その後、入居者とオーナーという関係だけでなく、幅広い企業とのオープンイノベーションを目指してファンド組成し、今に至る。

2015年12月には「31VENTURES Global Innovation Fund 1 号」という50億円規模のファンドを独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインとのパートナーシップで立ち上げており、計22社のスタートアップへ投資。更にアメリカ・イギリス・イスラエルの累計12本のファンドへLP出資*を実施している。

日本最大の不動産デベロッパーで世界をまたにかける投資ファンドにて活躍している31VENTURESが、具体的にどのような視点で不動産テックやデジタルテクノロジーをみているのか。その(協業を中心とした)戦略や標榜点に迫る。

*LP出資・・・ファンドへ出資をし、それが運用益や売却益が出たときに受け取れる組合に加入することを指す。LPはリミテッドパートナーの略。ファンドを管理運用する主体はゼネラルパートナー(略称:GP)という。

――ビジネスを創って協業を見据えていくために、例えばどういう領域に投資をしていますか?

能登谷さん :「スマートシティのパーツになりうる産業」ということが一番ご理解いただきやすいかと思っています。「スマートシティ」という言葉を使い始めた2000年代中頃は、まだまだ「スマートシティ=CO2の排出量削減」というコンセプトとすることが非常に多かったのですが、現在ではそれだけではなく例えばAI・IoTをスマートシティの中でどう活用するのか、どういうサービスがあるのか把握すること、そしてビジネスを創っていくことを考えています。スマートシティを作るための必要なナレッジや新しいビジネスの種探し、経験の集積をやっていきたいと考えています。

――そもそも国内の大手不動産デベロッパーがスタートアップファンドやCVCをやっていくことは珍しいことなのでしょうか?

能登谷さん : 国内ではあまり多くないですが、海外、特にアメリカでは多いです。我々もアメリカの他に、シンガポールでもC31VENTURESというCVCがあります。

この事業は、いかに身軽に色々な所に行き、国境を越えた世界で起きていることを自分事として捉えて、出資や協業をして日本に連れてくるかが大事だと思っています。

Facebookにしても、Appleにしても、Googleにしても、ソフトウェアの性質は国境を越えられることだと思います。自動車などもそうですが、不動産テックもそれらと同じく「不動産」ではなくて「動産」。不動産業は国境を越えられないけれど、消費行動や住まい方、生活者の選択肢は日本を限定しているわけではなく、いずれも国境を越えられる。

とすると、デジタルイノベーションが進んだとき、日本のスマートシティの一部を構成するような不動産テックが国境を越えて日本に来る可能性は多大にあると思っています。

――海外の企業で、「これは日本にはなかった」という企業はありますか?

小玉さん : 対外発表はしていないのですが、とあるセンサーの会社(アメリカのメガスタートアップ)が、昨年実証実験をしていました。

能登谷さん : 非常に多機能なIoTセンサーで、現地ではオフィスビルに導入して省エネ活用をしています。オフィスビル内の人の動きやクラウド利用状況を可視化するサービスで、プロダクトのレベルは非常に高かったと思います。

日本の不動産業界としてそのセンサーを導入したいと考えていたのですが、今回は海外のある大手企業に買収されてしまいました。

――先を越されてしまった背景には、何か難しい部分があったのでしょうか。

能登谷さん : そうですね。実証実験をやりながらアライアンスを創っていきたくても、実際にそのセンサーを導入するには設計・建設施工・資材に関わる様々な企業との協業が必要で。調整に時間を要してしまうのです。

小玉さん : 世界共通の課題ではありますが、まだまだスタートアップが業界に入りづらいという現状があります。理由として、まず挙げられるのが資金面。不動産テックの中でもIoTのハードに関わるものは製品開発のライフスパンがものすごく長いため、例えば、スマートロックを新しいビルやマンションで導入する計画を立てた場合、実現は3、4年後になります。そこで「じゃあお金を払うのは4年後でいいですか」となると、耐えられるスタートアップは非常に少ない。また、求められる検証レベルが高いものになるので、なかなかスタートアップが入りづらいのです。自動車産業なども同じことが言えるかもしれませんね。

能登谷さん : また、不動産の規制や免許制の有無という難しさもあります。例えば、「エレベータの電気使用量を減らせる」という技術系スタートアップが現れても、実証実験はオンサイトではできないと思います。 なぜなら、エレベーターは半年に1回は法定で(既存基準で動いているかという)検査が義務付けられているからです。

――一方で、不動産テックを積極的に導入していける企業も今後現れてくるのでしょうか?

そうですね。テクノロジー系やソフトウェアの企業は(基本的に)先に挙げたようなライセンスや法定で必要とされるものが存在しないため、ある意味自由度が高いのです。そういったビジネスモデルのプロトコルを全く持っていない企業が(不動産業界に新規参入し)街づくりに入っていくことは、既存のプレイヤーにとって驚異になりうると思っています。

特に大手企業は資金力もあるので、仮に「不動産テックを導入した新しいオフィスビルやマンションを建てる」と言って100億投資しようと思えば、投資できてしまいます。「不具合はありますが、その代わり新しい体験を提供する」として総戸数50戸くらいのマンションを作れば、それを選ぶ人も一定数いるのではないでしょうか。

小玉さん : また、そうした新規参入者と戦っていく上で、顧客データをデジタルデータとして持ち、活用することも重要です。その点は、リクルート住まいカンパニーさんにも大きな強みがあると思います。データを活用し生活者の行動特性を取れるプレイヤーには、街づくりやオフィスビル、住宅、商業施設も変えられると思っています。アプローチをどちらからしているのか、対象をどちらから見ているのか、ということで不動産デベロッパーはどこまでも実業、ハードの存在。そのため、ソフトである不動産テックの分野に投資していきたいですね。

――今後、この分野が面白いというところはありますか?

能登谷さん : 一番の(スマートシティの)キーパーツで、今後掘り下げていきたいと思うのが、モビリティ・アズ・ア・サービス*の分野です。住む場所を選択する際の最大要因の一つが交通アクセスですが、これにより、商圏の問題や交通アクセスの解決も可能になると考えています。モビリティ・アズ・ア・サービスのテクノロジーが普及して、交通アクセスの問題が解決するには、技術的には5年、10年経てばできると思います。

5年、10年というと先のことのように聞こえるかもしれませんが、不動産の再開発でいえば1プロジェクトの事業期間でしかありません。自動運転の車が走るであろう未来の街にフィットできるかということが重要ですし、今から楽しみですね。

*モビリティ・アズ・ア・サービス=自動車や自転車、バイクなど移動に関する乗り物上にソフトウェアのテクノロジーを活かしたサービスが展開できること。

小玉さん : 僕は、例えば航空管制に代表されるようなOSです。 例えば、『マイノリティ・リポート』(※2002年に公開されたアメリカのSF映画)で街を歩いているとデジタルサイネージがポップアップで出ているじゃないですか。バーチャルとリアルが融合され、人が人であることを特定されていく。デジタルサイネージ等もそうですが、それを包括的に見るプレイヤーは必ず出てきます。まだそれは世界で誰もできていないし、AIがシンギュラリティを超えた瞬間に成立するのかもしれません。不動産は究極の耐久消費財で商品のライフサイクルが長い。ライフサイクルが長いから陳腐化してしまう懸念もありますが、でもそこに載るOSだけは変えられるようにできることが、本当のゲームチェンジャーだと思います。>

――今後のビジョンや取り組んでいきたいところは?

能登谷さん : まずは今トライアルが動く状態になっているところをきちんとやっていくことです。不動産テックを活用し、既存ビジネスを掛け合わせて新しい事業をつくるというミッションを、ビッグピクチャーも考えつつ地道にやっていきたいですね。

小玉さん : もちろん大きなビジョンは持っています。千里の道も一歩から、ではないですけど、まずは一歩一歩、成功の積み重ねや勝ちパターンを創っていきたいです。それをできるだけ、見える化・可視化することによって「こういうやり方をすると、こういうことが生まれるのか」ということを、実例として理解する機会を重ねていきたいです。その結果が不連続・非連続な企業の成長に繋がるといいなと思いますし、価値や利益を社会に還元できれば、それが一番望ましいですよね。

今回はスマートシティでの現業強化と事業創出を旗印にソフトとハードが融合する不動産テックの最先端にいる31VENTURESのお二人からお話を聞いた。もちろん規制や商習慣の面で日本独特のものがあるものの、不動産業界の中でIT企業ができることの幅が広がってきているのは確か。IT企業が持つ生活者データの不動産市場への活用の観点も非常に面白く、OSなどの思い切った領域にも既存のプロトコルがないからこそ入っていける可能性があるのではと感じた。不動産業界の中でのデジタル活用の存在と重要性が非常に大きくなっていることを実感するインタビューだった。

http://www.31ventures.jp/